社会福祉法人の「監事」、顧問税理士にお願いできる?兼任の可否と報酬相場解説
社会福祉法人の運営において、非常に重要な役割を持つのが「監事」です。 法改正によりその責任と権限が強化され、適任者を探すのに苦労されている法人様も多いのではないでしょうか。
そこでよく挙がるのが、「いつも会計を見てもらっている顧問税理士に、そのまま監事もお願いできないか?」という疑問です。
結論から申し上げますと、「依頼することは可能ですが、厳しい条件(制限)があります」。 本記事では、顧問税理士が監事を兼任できる具体的なケースと、依頼する際の手順、気になる報酬の考え方について解説します。
1. そもそも社会福祉法人の「監事」とは?
社会福祉法人には、必ず2名以上の監事を設置しなければなりません。その内訳は法令で以下のように定められています。
- 社会福祉事業について知識・経験がある人
- 財務管理(会計)について知識・経験がある人
このうち、2つ目の「財務管理の専門家」として、税理士に白羽の矢が立つケースが一般的です。 監事は単なる名誉職ではなく、理事の業務執行や財産状況を監査し、不正があれば報告する義務(善管注意義務)を負う、非常に責任の重いポジションです。
2. 顧問税理士は監事を兼任できる?「自己監査」の壁
「事情をよく知っている顧問税理士なら安心」と思いがちですが、ここには「自己監査の禁止」という大きなルールが立ちはだかります。
【NG】兼任できないケース(自己監査)
顧問税理士が、以下の業務を行っている場合は、監事になることはできません。
- 記帳代行(法人の代わりに帳簿をつけている)
- 決算書の作成
- 税務申告書の作成
理由はシンプルで、「自分で作った決算書を、自分で監査して『問題ない』と判断することになるから」です。これではチェック機能が働かず、透明性が損なわれるため、認められません。
【OK】兼任できるケース(助言のみ)
一方で、顧問税理士の業務範囲が以下に限定されている場合は、兼任が認められる可能性があります。
- 記帳や決算は法人の経理担当者が行っている
- 税理士はあくまで「税務・経営の相談(アドバイス)」のみを行う
この場合、税理士は計算書類の作成者ではないため、客観的な立場で監査を行うことが可能となります。ただし、線引きが難しいため、契約内容を厳密に精査する必要があります。
3. 監事を依頼する際の流れと手続き
適任の税理士(顧問とは別の税理士、または助言のみの顧問)が見つかり、監事を依頼する場合のフローは以下の通りです。
- 候補者の選定と交渉 社会福祉法人の会計基準は特殊であるため、福祉会計に精通した税理士を選ぶことが必須です。
- 契約内容の確認 「記帳代行などの実務は行わない」旨を契約書で明確にします。
- 理事会・評議員会での選任 理事会で候補者を決定し、在任監事の過半数の同意を得た上で、最終的に評議員会の決議で選任します。
- 就任承諾と届出 就任承諾書や誓約書を受領し、所轄庁(都道府県や市など)へ届け出ます。
4. 気になる「報酬」の考え方
「顧問料を払っているから、その中で監事もやってほしい」というのは難しいのが現実です。監事と税務顧問は、役割も責任も全く異なるからです。
監事報酬(監査への対価)
監事としての業務(理事会出席、監査報告書の作成、計算書類のチェックなど)に対して支払われます。
- 相場:法人の規模や関与度合いによりますが、月額数万円〜十数万円程度が一般的です。
顧問料(税務・経営指導への対価)
もし監事とは別に、税務相談などの顧問契約を結ぶ場合は、別途顧問料が発生します。
- 注意点:社会福祉法人の会計は一般企業よりも複雑なため、通常の法人顧問料よりも高めに設定される傾向があります(月額3万円〜など)。また、決算・申告料は別途必要になります。
5. まとめ:健全な運営のために「分離」がおすすめ
顧問税理士に監事を依頼することは、条件付きで可能です。しかし、独立性を疑われるリスクを避けるためには、「顧問税理士」と「監事」は別の専門家に依頼するのが最も安全で透明性の高い方法と言えます。
- 日々の経理や税務相談は「顧問税理士」へ
- 年に数回の監査やガバナンスチェックは「別の税理士(監事)」へ
このように役割を分担することで、相互牽制が働き、法人運営の健全性が高まります。 監事の選任でお悩みの際は、社会福祉法人の実務に強い専門家へ相談することをお勧めいたします。
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