顧問税理士と監査役は兼任できる? 業務の違いと、人手不足の中小企業における「現実的な選択」

会社法において株式会社には原則として「監査役」の設置が必要です(※譲渡制限会社等の例外を除く)。 しかし、中小企業の実務現場では「適任者がいない」という悩みが尽きません。そこでよく挙がるのが、「いつも相談に乗ってくれている顧問税理士に、監査役もお願いできないか?」という疑問です。

本記事では、顧問税理士と監査役の業務の違いを整理し、兼任の法的な可否と、メリット・デメリットについて解説します。


1. そもそも「顧問税理士」と「監査役」はどう違う?

まずは、それぞれの役割と立場の違いを明確にしましょう。

顧問税理士:経営者の「パートナー」

  • 主な業務:税務書類の作成、会計処理の指導、節税対策、経営相談など。
  • 立場:経営者(取締役)と委任契約を結び、会社の成長や適正な納税のために「執行側(経営陣)に協力する」立場です。アクセルを踏む手助けをする役割と言えます。

監査役:経営者の「監視役」

  • 主な業務:業務監査(取締役が法律を守っているかチェック)、会計監査(計算書類が正しいかチェック)。
  • 立場:株主総会で選任され、経営者が暴走しないよう、または不正を行わないよう「監督・検査する」立場です。ブレーキの効きを確認する役割と言えます

2. 法律上、兼任は「認められている」

役割が「協力者」と「監視役」で真逆であるため、「兼任は禁止されているのでは?」と思われがちですが、会社法上、顧問税理士が監査役を兼任することは禁止されていません。

会社法における欠格事由

会社法第335条では、監査役の兼任禁止について以下のように定めています。

(監査役の資格等) 監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人~(中略)~を兼ねることができない。

つまり、「会社の従業員」や「取締役」が監査役をやることは禁じられていますが、外部の専門家である顧問税理士はここに含まれないため、法的には監査役に就任すること自体に問題はありません。

(※ただし、会計監査人設置会社における「会計監査人」や、上場企業の独立役員要件などとは異なりますのでご注意ください。)


3. 兼任のデメリット:「自己監査」のリスク

法的にOKであっても、兼任が推奨されない主な理由は自己監査になってしまうからです。

顧問税理士は、自身が指導して作成した決算書を、今度は監査役という立場でチェックすることになります。「自分が作ったものを自分で『正しい』と判定する」ことになり、これでは監査の客観性や独立性が保たれません。

そのため、金融機関や外部の出資者からは「チェック機能が働いていない(なれ合いである)」と見なされ、対外的な信用力が低くなるというデメリットがあります。


4. それでも「兼任」にメリットがあるケース

デメリットはありますが、人材や資金が潤沢ではない中小企業においては、顧問税理士による兼任が「次善の策」として一定のメリットを持つことも事実です。

① 「名ばかり監査役」より実効性がある

監査役のなり手がおらず、会計知識のない親族や従業員を名前だけ登記しているケースは少なくありません。それに比べれば、会社の数字を熟知している顧問税理士が監査役に就く方が、粉飾や異常な数値の発見能力は圧倒的に高く、実質的なチェック機能は向上します。

② コストと手間の削減

全く面識のない外部の税理士に監査役だけを依頼すれば、新たな報酬が発生し、一から会社の事情を説明する手間もかかります。顧問税理士であれば、現状の顧問料の範囲内(または少額の追加)で対応可能な場合もあり、コミュニケーションコストも最小限で済みます。

③ 成長段階の「つなぎ」として

「将来的には独立した監査役を入れるべきだが、今の規模ではコストが見合わない」という段階の企業にとって、顧問税理士の兼任は、コンプライアンス意識を保ちつつ現実的に組織を運営するための選択肢となり得ます。


まとめ

顧問税理士と監査役の兼任は、本来の「牽制機能」の観点からは推奨される形ではありません。しかし、「何もチェックできない名義貸しの監査役」を置くよりは、専門家である顧問税理士が責任を持って兼務する方が、企業統治の実効性が高いという側面もあります。

企業の成長フェーズや人材の状況に合わせて、

  • まずは顧問税理士にお願いして最低限の監査体制を整える
  • 規模が大きくなったら、別の税理士や専門家を社外監査役として招く

というように、柔軟に体制を検討していくのが現実的なアプローチと言えるでしょう。り、成長し続けるための最適な「経営の器」となるのです。


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