税務調査の対象になりやすい申告とは? 名義預金や申告漏れのリスク

「申告書を出せば終わり」ではありません。相続税は、他の税金(所得税や法人税)に比べて、税務調査が入る確率が非常に高いと言われています。

税務署は、亡くなった方の過去の収入や不動産情報を驚くほど詳細に把握しています。提出された申告書の内容と、彼らが持っているデータに「ズレ」がある場合、調査官はやってきます。

本記事では、税務調査のターゲットになりやすい申告の特徴と、特に指摘されやすいポイントについて解説します。


1. 税務署は「すべて」を知っている

まず知っておくべきことは、税務署の情報収集能力の高さです。彼らはKSK(国税総合管理)システムという巨大なデータベースを運用しており、以下のような情報を蓄積しています。

  • 過去の所得税の申告内容(現役時代の収入規模)
  • 不動産の所有状況(固定資産税のデータ)
  • 株式の配当金や譲渡益のデータ
  • 生命保険金の支払調書
  • 過去の相続や贈与の記録

税務署はこれらのデータから、「この人なら、これくらいの遺産を持っているはずだ」という推計値を持っています。 もし、申告された遺産額がこの推計値よりも極端に少なければ、「どこかに隠しているのではないか?」「計算間違いがあるのではないか?」と疑い、調査対象に選定します。


2. 調査官が狙う「3つのポイント」

税務調査で指摘される内容の8割以上は、「現預金」と「有価証券」に関連するものです。特に以下の3点は、徹底的にチェックされます。

① 名義預金(家族名義の預金)

これが最も多い指摘事項です。 「妻の名義」や「子供・孫の名義」の通帳であっても、その原資が亡くなった方のお金であり、通帳や印鑑を亡くなった方が管理していた場合、それは「実質的に亡くなった方の財産(遺産)」とみなされます。 「名義が違うから関係ない」という理屈は、税務署には通用しません。

② 直前の多額な出金(使途不明金)

亡くなる直前(数ヶ月〜数年前)に、ATMや窓口で多額の現金が引き出されている場合、その使い道が問われます。 「入院費や葬儀代に使った」のであれば領収書が必要ですが、使い道が説明できない現金(タンス預金)や、単に家族に渡していた場合は、すべて相続財産(または贈与)として課税対象になります。

③ 海外資産やネット取引

最近では、海外に口座を持っている場合や、ネット証券、暗号資産(仮想通貨)の申告漏れに対する監視も強化されています。「バレないだろう」は通用しません。


3. 「自分で申告」は調査されやすい?

「税理士に頼まず、自分で申告書を作った」というケースは、税務署から見て調査対象になりやすい傾向があると言われています。

理由は単純で、プロが作成したものに比べて「ミスの可能性が高いから」です。

  • 土地の評価方法に誤りがないか
  • 名義預金の判断が甘くないか
  • 特例の適用要件を満たしているか

税理士が作成した申告書には、通常「税理士の署名」が入ります。さらに、書面添付制度(申告書の品質を税理士が保証する書類)を利用することで、税務署に対する信頼性を高めることができます。一方、一般の方が作成した申告書は、計算ミスや認識不足が含まれている可能性が高いと判断され、チェックが厳しくなるのです。


4. 調査が入った場合の負担

税務調査が行われるのは、申告書を提出してから1年〜2年後の秋頃が多いです。

調査官が自宅にやってきて、朝から夕方まで通帳の中身や保管場所、生前の生活状況などを事細かに質問されます。これには大変な精神的ストレスがかかります。 さらに、申告漏れを指摘されれば、不足分の税金に加えて「過少申告加算税(10%〜15%)」や、悪質な場合は「重加算税(35%〜40%)」という重いペナルティを支払わなければなりません。


5. まとめ:適正な申告が一番の対策

税務調査を100%防ぐ方法はありませんが、リスクを大幅に下げることは可能です。それは、「疑われる余地のない、適正な申告書」を提出することです。

  • 過去の預金移動を精査し、不明な出金を説明できるようにしておく。
  • 名義預金に該当するものがないか、客観的に判断する。
  • 税理士の署名を入れ、申告書の信頼性を担保する。

「とりあえず少なく申告しておこう」という安易な判断が、後になって最も高い代償を払うことになります。不安な点は申告前に解消しておくことが重要です。


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