「自分で申告」の落とし穴:土地評価の難しさ
書店に行けば「自分でできる相続税申告」といったマニュアル本が多く並んでいます。基礎控除額ギリギリのケースや、遺産が預金のみといったシンプルなケースであれば、ご自身で申告を行うことも不可能ではありません。
しかし、遺産の中に「土地(不動産)」が含まれている場合、難易度は一気に跳ね上がります。
本記事では、自己申告の最大のハードルとなる「土地評価」の複雑さと、素人判断が招く「過大納税(払いすぎ)」のリスクについて解説します。
1. 土地の値段は「一物四価」
まず、土地の評価が難しい最大の理由は、一つの土地に複数の価格が存在することです。
- 実勢価格(時価):実際に売買される価格
- 公示価格:国が定める標準的な価格
- 固定資産税評価額:固定資産税の計算に使われる価格
- 相続税評価額(路線価):相続税の計算に使われる価格
相続税の申告では、原則として4つ目の「路線価(または倍率方式)」を使って計算します。よくある間違いが、「固定資産税の通知書に書かれている評価額をそのまま使ってしまう」ことです。これでは正しい税額は計算できません。
2. 「面積 × 路線価」だけでは決まらない
「路線価図を見て、その道路の単価に面積を掛ければいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、それはその土地が「真四角(正方形・長方形)」で、「道路にきれいに面している」場合に限られます。
実際には、そのような理想的な土地は稀です。税理士は、土地の形状や環境に合わせて、様々な「補正(減額)」を行います。
減額できる要素の例(評価を下げるポイント)
- 形が悪い土地(不整形地):三角形やL字型など、使い勝手の悪い土地。
- 間口が狭い土地:道路に接している部分が狭く、奥に長い土地。
- 道路に面していない土地(無道路地):建築基準法上の道路に接していない土地。
- がけ地を含む土地:敷地の一部が斜面になっている土地。
- 広すぎる土地(地積規模の大きな宅地の評価):一定以上の広さがあり、開発が必要な土地。
これらの補正を正確に適用することで、評価額を10%〜50%以上下げられるケースもあります。これらは自動的に適用されるものではなく、申告する側が「この土地は使いにくいので下げてください」と主張(計算)しなければなりません。
3. 「利用区分」の判断ミス
もう一つの落とし穴が、「土地をどう単位分けするか(評価単位)」という問題です。
例えば、隣り合った2つの土地を持っていたとします。
- 1つは自宅の敷地
- もう1つは賃貸アパートの敷地
これらは物理的にはつながっていても、利用目的が異なるため、別々の土地として評価しなければなりません。逆に、自宅と庭のように一体として利用している場合はまとめて評価します。
この「分け方」を間違えると、小規模宅地等の特例が使えなくなったり、無駄に高い評価額になったりと、致命的なミスにつながります。
4. 税務署は「払いすぎ」を教えてくれない
ここが最も怖いポイントです。
もし、あなたが土地の評価を誤り、本来よりも「安く」申告してしまった場合、税務署は後日「税務調査」に入り、追徴課税を行います。
しかし逆に、減額要素を見落として、本来よりも「高く」評価して申告してしまった場合(税金を払いすぎた場合)、税務署が親切に「払いすぎていますよ」と教えてくれることは、まずありません。
つまり、土地評価の知識不足による「過大納税」は、そのまま「損」として確定してしまう可能性が高いのです。
5. まとめ:報酬を払ってでもプロに頼む価値
土地の評価額が数百万円変われば、納める税金も数十万円〜数百万円単位で変わってきます。
「税理士報酬を節約しよう」と自分で申告に取り組んだ結果、土地の評価減を見落とし、税理士報酬以上に高い税金を払ってしまった……というケースは決して珍しくありません。
特に不動産をお持ちの場合は、適正な評価で無駄な税金を払わないためにも、専門家による査定を受けることを強く推奨します。
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