【税制改正】「1億円の壁」是正がさらに強化へ。控除額半減・税率30%でM&Aや事業承継に影響
高所得者層の税負担率が低下する「1億円の壁」問題。これを是正するために導入された「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化(ミニマム税)」ですが、令和8年(2026年)度に向けて、さらに課税強化が行われる見通しです。
当初の制度よりも対象範囲が広がり、税負担が大幅に増える可能性があります。 本記事では、改正案の変更点と、M&Aや資産売却に与える具体的な金額インパクトについて解説します。
1. 改正の背景と概要
日本の所得税は累進課税(最大55%)ですが、株式や不動産の譲渡益などは分離課税として一律約20%(所得税15%+住民税5%)で済みます。そのため、所得が1億円を超える富裕層ほど、実質的な税負担率が低くなる現象が起きていました。
これを是正するため、令和5年度改正で追加課税(ミニマム税)の導入が決まり、令和7年分から適用されます。しかし、公平性をより確保する観点から、この制度に対しさらなる見直し(課税強化)が行われることとなりました。
2. 【重要】何が変わるのか?(新旧比較)
最も重要な変更点は、基準となる計算式の「控除額の縮小」と「税率の引き上げ」です。
これまでの計算では「3.3億円」という大きな控除があったため、超富裕層以外は対象外となるケースが大半でした。しかし、これが1.65億円に半減し、かつ税率が上がることで、影響を受ける層が一気に拡大します。
3. 具体的な影響額のシミュレーション
M&Aによる事業売却(イグジット)などで、単年度に多額の利益が出たケースを想定してみます。
| 項目 | 【改正前】当初ルール(控除3.3億円 / 税率22.5%) | 【改正後】新ルール(控除1.65億円 / 税率30%) |
| ① 通常の計算 | 7,500万円 (5億円 × 15%) | 7,500万円 (5億円 × 15%) |
| ② 特例計算 | 3,825万円 (5億 – 3.3億)× 22.5% | 1億50万円 (5億 – 1.65億)× 30% |
| 判定 | ①が高い(追加なし) | ②が高い(追加発生) |
| 納税額 | 7,500万円 | 1億50万円 |
| 差引負担増 | ±0円 | +2,550万円 |
このように、同じ5億円の売却益でも、改正後は手残りが約2,500万円も減少することになります。
4. 課税対象となる「ボーダーライン」の大幅低下
これまでは、株式譲渡益などの分離課税所得のみの場合、所得が約10.33億円を超えなければ影響はありませんでした。 しかし今回の改正により、このボーダーラインが約3.37億円まで下がります。
つまり、「数十億円規模の超富裕層」だけの話ではなく、「数億円規模の資産売却を行う経営者・資産家」が当事者となる制度へと変貌しました。
5. 注意すべき4つの場面
単なるM&Aだけでなく、以下のような場面でも思わぬ税負担増が生じるリスクがあります。
- M&A・事業承継
- 自社株売却時の手取り額が想定より目減りする可能性があります。
- 資産管理会社への移行
- 個人から資産管理会社へ自社株を譲渡する際も、譲渡益が出れば対象となります。
- 不動産の整理・組み換え
- 長年保有していた土地・建物の売却益も対象となるため注意が必要です。
- 【要注意】相続発生後の納税資金確保
- 相続税を支払うために不動産や自社株を売却した際、この追加課税が発生すると、予定していた納税資金が不足する事態になりかねません。
おわりに
「1億円の壁」是正措置は、当初の想定よりもはるかに厳しい内容へとシフトしています。 特に令和8年以降に大型の資産売却を予定されている方は、従来のシミュレーションが通用しない可能性があります。事前のプランニングが資産防衛の鍵となります。
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