自宅を貸して海外転勤。将来売却するときの「3,000万円特別控除」はどうなる?
はじめに:海外転勤と自宅売却の「落とし穴」
海外転勤の辞令。数年間日本を離れるため、ご自宅を賃貸に出すことを検討されている方も多いでしょう。賃料収入が得られる一方で、「将来、日本に戻ってきてその自宅を売却するとき、税金はどうなるのだろう?」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
特に多くの方が気にされるのが、マイホーム売却時に大きな節税効果のある「3,000万円特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除)」です。
「自宅を賃貸に出していると、この控除は使えなくなるのだろうか?」 結論から言うと、ケースによっては適用できなくなる可能性があります。
この記事では、海外転勤を機に自宅を賃貸に出す方が、将来その不動産を売却する際に「3,000万円特別控除」がどのように扱われるのか、適用するための要件や注意点を税理士が分かりやすく解説します。
基本を確認:「3,000万円特別控除」とは?
マイホーム売却時の大きな特例
「3,000万円特別控除」とは、個人がマイホーム(居住用財産)を売却した際に得た利益(譲渡所得)から、最大3,000万円を控除できる特例です。
例えば、購入価格3,000万円のマンションを5,000万円で売却し、諸費用が200万円かかった場合、譲渡所得は「5,000万円 – 3,000万円 – 200万円 = 1,800万円」となります。 この1,800万円からさらに3,000万円を控除できるため、結果として譲渡所得は0円となり、税金がかからない、という非常に強力な特例です。
特例適用の主な要件
この特例を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要がありますが、最も基本的な要件は以下の2点です。
- 自分が住んでいた家屋とその敷地を売却すること。
- 売却した年の前々年、前年にもこの特例や他の居住用財産の特例を受けていないこと。
しかし、海外転勤で自宅を賃貸に出す場合、この「自分が住んでいた家屋」という点が複雑になります。
海外転勤で自宅を貸した場合の「3,000万円特別控除」
原則:住まなくなってから「3年目の年末まで」
結論として、海外転勤でご自身が住まなくなった(賃貸に出した)としても、住まなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、原則として「3,000万円特別控除」の適用を受けることができます。
例えば、2024年4月1日に海外転勤で自宅を賃貸に出し、ご自身が居住しなくなった場合、2027年12月31日までに売却すれば、この特例を適用できる可能性があります。
注意点:3年を超えると適用不可に
問題は、「3年を超える長期の海外転勤や、帰国後の再転勤などで、売却が4年目以降になってしまうケース」です。
この場合、原則として「3,000万円特別控除」は適用できなくなります。つまり、賃貸に出していた期間が長く、結果的に「住まなくなってから3年目の年末」を過ぎて売却することになると、大きな税負担が生じる可能性があるのです。
「非居住者」期間の売却と「3,000万円特別控除」
海外転勤中に売却する場合
海外転勤中(つまり「非居住者」の期間中)に日本の自宅を売却した場合でも、上述の「住まなくなった日以後3年目の年末まで」という要件を満たしていれば、3,000万円特別控除の適用は可能です。
ただし、非居住者が日本の不動産を売却する場合、買主がその売却代金から10.21%を源泉徴収する義務があります。この源泉徴収された税額は、確定申告で精算されます。
納税管理人の役割
非居住者期間中に売却益が発生し、確定申告が必要になる場合、事前に届け出た納税管理人を通じて手続きを行うことになります。納税管理人には、申告書の提出や税金の納付を代行してもらうため、信頼できる人(または税理士)を選任しておくことが重要です。
まとめ:長期化する賃貸は慎重に検討を
海外転勤を機に自宅を賃貸に出す場合、将来の売却時における「3,000万円特別控除」の適用には注意が必要です。
- 住まなくなってから3年目の年末までに売却できれば、特例は適用可能。
- この期間を超えて賃貸を続けると、特例が使えなくなるリスクがある。
- 海外転勤中に売却する場合でも、特例適用は可能だが、売却代金の源泉徴収に注意。
ご自身の海外滞在期間や帰国後の計画、将来的な売却のタイミングなどを総合的に考慮し、慎重に判断することが大切です。
思わぬ税負担で後悔しないよう、ご不安な点があれば、お早めに税理士などの専門家にご相談いただくことをお勧めします。
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