【海外転勤】自宅マンションを貸す前に。税理士が解説する「やるべき税務手続き」と注意点
はじめに:海外転勤で「自宅を貸す」ときの税務上の落とし穴
「海外転勤の辞令が出た。数年間日本を離れることになるが、現在住んでいる自宅マンションの住宅ローンも残っている。空き家にしておくのはもったいないので、この期間だけ賃貸に出したい。」
近年、このようなご相談が非常に増えています。
しかし、サラリーマンの方がご自宅を貸し出す場合、特に「海外」へ転勤されるケースでは、国内にいる時とは全く異なる税務上のルールが適用されるため、十分な準備が必要です。
「知らなかった」では済まされない税務手続きや、将来大きな損をする可能性のある注意点が存在します。
この記事では、税理士の視点から、海外転勤を機に自宅マンションを貸し出す方が渡航前に「必ずやるべき税務手続き」と、見落としがちな「重大な注意点」について、分かりやすく解説します。
最重要ポイント:「居住者」から「非居住者」になるということ
税務上の「非居住者」とは?
まず大前提として、所得税法上、「1年以上の予定で」国外に勤務・滞在する方は、日本を出国した時点(原則として出国日の翌日)から「非居住者」として扱われます。
非居住者になると、日本の税務上の扱いは大きく変わります。
- 居住者:全世界で得た所得(全世界所得)に対して、日本で課税される。
- 非居住者:日本国内で発生した所得(=国内源泉所得)に対してのみ、日本で課税される。
今回のように、日本国内にあるマンションを貸して得られる賃料収入(不動産所得)は、この「国内源泉所得」に該当します。 したがって、海外に住んでいても、日本で確定申告をし、納税する義務が発生するのです。
渡航前に必須!「納税管理人」の選任
「納税管理人」とは? なぜ必要か?
非居住者になると、ご自身で日本での税務手続き(確定申告書の提出、税金の納付、税務署からの書類受領など)を行うことが難しくなります。
そこで、ご自身の代わりにこれらの手続きを行う代理人として「納税管理人」を定める必要があります[3]。
納税管理人は、税理士などの専門家に依頼することも、ご家族やご親族に依頼することも可能です。
手続きの方法と期限
出国(転勤)の日までに、所轄の税務署(出国時の納税地)へ「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出します。
この手続きを忘れて出国すると、税務署からの重要なお知らせが受け取れなかったり、申告・納税が遅れて延滞税などのペナルティが発生したりする可能性があります。渡航前の準備で最も重要な手続きの一つです。
渡航後に発生する税務(確定申告)
不動産所得の確定申告
納税管理人を通じて、毎年(翌年2月16日~3月15日)に確定申告を行います。 賃料収入から、必要経費(固定資産税、管理費・修繕積立金、減価償却費、ローンの利息部分など)を差し引いて「不動産所得」を計算し、税額を納付します。
【注意】賃料が「源泉徴収」されるケース
もし、貸し出す相手(借主)が「法人」であり、その法人が「社宅」として利用する場合、その法人はあなた(貸主)に支払う賃料から20.42%を源泉徴し、税務署に納付する義務があります。
この場合、あなたは源泉徴収された「後」の金額を受け取ることになります。
確定申告では、この源泉徴収された税額を「前払いした税金」として、計算上の年税額から差し引くことができます(引ききれない場合は還付されます)。 契約の際は、借主が個人か法人か、法人の場合は社宅利用か否かを必ず確認してください。
見落としがちな「注意点」
手続きとは別に、多くの方が「こんなはずではなかった」と後悔される重大な注意点があります。
注意点:将来の売却時「3,000万円特別控除」が使えなくなる可能性
マイホームを売却した際には、譲渡益から3,000万円を控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」という非常に大きな特例があります。
しかし、この特例も「住まなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却することが原則です。
海外赴任が長引き、賃貸に出していた期間が長くなると、将来そのマンションを売却する際にこの特例が使えなくなり、多額の譲渡所得税が発生するリスクがあります。
まとめ:手続きは「渡航前」が肝心です
海外転勤でご自宅を貸し出す場合、税務上の扱いは「非居住者」となり、国内にいる時と大きく変わります。
- 「納税管理人」の届出は渡航前に必須。
- 賃料収入(不動産所得)は日本で確定申告が必要。
- 将来の売却時、「3,000万円控除」が使えないリスクがある。
特に、住宅ローン控除や売却時の特例については、ご自身のライフプランや将来のキャッシュフローに直結する重要な問題です。
ご不安な点がある場合は、必ず出国前に、私ども税理士事務所のような専門家にご相談ください。
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