【実践編②】「株式交換・株式移転」によるホールディングス化
ホールディングス化の構築手法のうち、株式の移動を核とするのが「株式交換方式」と「株式移転方式」です。これらの手法は、特に少数株主の整理や、許認可を維持しつつ純粋持株会社を設立したい場合に強力なツールとなります。
本記事では、この二つの類似した手法の仕組み、メリット・デメリット、そして選択基準を比較解説します。
I. 株式交換方式の基本と利用目的
株式交換方式は、既存の会社同士で行う組織再編行為です。
1. 仕組みと目的
- 定義: 既存の2社の株式を交換し、1社を完全親会社、もう1社を完全子会社とします。完全親会社は、完全子会社の発行済株式を100%保有することになります。
- 対価: 交換の対価は、親会社の株式が一般的ですが、現金や別の会社の株式でも問題ありません。
- 利用ケース: 企業が他企業を買収するM&Aの際に多く利用されます。これは、買収される側の株主から、保有株式を強制的に親会社に移転させられる代わりに、親会社の株式などが対価として割り当てられるためです。
2. メリットとデメリット
| 分類 | メリット | デメリット |
| メリット | 現金の準備が不要で、株式交換のみで再編が可能。少数株主から強制的に株式を吸い上げることができるため、株主構成の整理に極めて有効。親会社は既存の会社なので、設立の手間がない。 | 親会社の株価状況によって、買収額が上乗せされる場合がある。非公開企業が買収された場合、現金化が難しいリスクがある。 |
II. 株式移転方式の基本と利用目的
株式移転方式は、新たに親会社を設立する組織再編行為です。
1. 仕組みと目的
- 定義: 既存の会社(単独または複数)が、新たに完全親会社を設立し、自らの株式のすべてをその親会社に移転させます。その結果、既存の会社は完全子会社の地位となります。
- 利用ケース: ホールディングス(持株会社)を新しく設立する際に多く用いられます。特に、既存の会社が事業に必要な許認可(例:建設業許可)を保有している場合に有効です。
2. メリットとデメリット
| 分類 | メリット | デメリット |
| メリット | 許認可の移転手続きが不要。 既存会社の法人格がそのまま子会社として存続するため、事業運営に大きな影響が出にくい。会社自体が消滅しないため、再編手続きが比較的スピーディー。 | 新たに空の持株会社を設立するため、資産や負債を移転させる場合は、別途手続き(会社分割など)が必要。 税務上の資本金などの額が増加し、法人住民税の負担が増えることがある。 |
III. 株式交換と株式移転の決定的な違いと選択基準
両手法は似ていますが、「親会社を新設するか否か」が最大の分岐点となります。
| 比較項目 | 株式交換方式 | 株式移転方式 |
| 親会社の存在 | 既存の会社が親会社となる。 | 新たに親会社を設立する。 |
| 利用シーン | M&A、少数株主の整理(買収) | 純粋持株会社の設立、許認可の維持 |
| 効力発生タイミング | 契約書で定めた日時。 | 新設会社の登記時。 |
| 税制上の柔軟性 | 親会社を合同会社にできるなど、税制上有利な選択肢がある。 | 選択肢が株式交換より狭い。 |
選択の基準
- 許認可の有無: 事業の継続に許認可が必須で、その手続きを避けたい場合は株式移転方式が有利です。
- 既存の会社の活用: 既存の会社の資産や信用力を親会社としてそのまま活用したい場合は株式交換方式が有利です。
IV. 税務・労務に関する留意点
株式の移転を伴う再編は、株主個人の課税、労働者の保護など、多岐にわたる側面で留意が必要です。
1. 株主個人の課税(原則)
- 原則として、株式交換・移転により生じた利益(保有株式の売却益)は、株主個人にとって課税対象となります。
- ただし、一定の税制適格要件を満たした場合は、課税の繰り延べ(非課税)とされます。
2. 労働者保護の措置
- 株式交換・移転の場合、事業を行う法人格はそのまま存続し、従業員は子会社の従業員として残るため、労働契約は基本的にそのまま承継されます。
- 労働者は保護されており、労働者本人の同意なしに解雇することはできません。労働条件も労使間の合意なしに変更することはできません。
両手法とも、現金の準備を伴わずに大規模な組織再編を実現できる強力な手段ですが、税務上の適格性や株価算定など、専門家による綿密な事前検討が不可欠です。
お問い合わせはこちら
弊事務所は、経営に関わる税務・会計の課題解決に特化しています。当事務所の報酬体系や具体的なお見積もりにつきましては、まず貴社の現状をお伝えいただき、個別にご依頼ください。お客様の事業が安心して成長できるよう、専門家として確実なサポートをお約束いたします。
