【リスク編】ホールディングス化の「デメリット」と回避策
ホールディングス化は多くの戦略的メリットをもたらしますが、同時に固有のデメリットと潜在的なリスクも伴います。これらのリスクを事前に理解し、適切な対策を講じることこそが、ホールディングス化を成功させるための重要な要素です。
本記事では、ホールディングス体制が抱える主なデメリットと、それらを回避・最小化するための対策を解説します。
I. コスト増加とバックオフィス部門の肥大化
ホールディングス化の最も明確なデメリットの一つは、グループ全体の維持コストが増加しやすい点です。
1. 法人維持コストの増加
- 法人数の増加:ホールディングス体制を構築すると、必然的にグループ内の法人数が一つ以上増えます(持株会社を新設する場合など)。法人数が増えるごとに、その法人を維持するためのコストが発生します。
- 維持費用の内訳:具体的には、税務申告費用、登記費用、法人住民税の均等割などの基本コストが増加します。
2. バックオフィス部門の重複と肥大化
- 部門の分散:ホールディングス化の初期段階で、経理、総務、人事、法務といったバックオフィス(間接)部門が、親会社と子会社の間で重複してしまうリスクがあります。
- 収益の阻害:これらの間接部門の肥大化は、グループ全体の収益確保を阻害する要因となり得ます。
回避策:集中とアウトソーシング
ホールディングス(持株会社)の存在意義は、このようなデメリットをいかに解消または縮小させるかにかかっています。対策として、管理部門の機能を持株会社に集中させる(シェアードサービスセンター化)か、一部機能を外部にアウトソーシングすることが有効です。
II. 組織連携の難しさとコミュニケーション問題
事業が独立した法人となることで、経営効率は向上しますが、一方でグループ内での連携に問題が生じる可能性があります。
1. 意思疎通の難航と対抗意識
- 別企業としての意識:同じグループ内であっても、子会社同士が独立した法人として運営されるため、対抗意識が生まれることがあります。
- 連携の難しさ:親会社と子会社の間で、または子会社間で、情報共有や意思疎通がスムーズにいかなくなることがあります。連携が取れない状況に陥ると、物事が上手に進まない場合があります。
2. 情報隠蔽とモラルハザードのリスク
- 上下関係の発生:親会社と子会社の間に明確な上下関係ができてしまうと、子会社側が親会社を意識しすぎるあまり、都合の悪い情報を隠してしまう**「情報隠蔽(モラルハザード)」**が生じるデメリットがあります。
回避策:明確なガバナンスと評価基準の統一
- 明確なガバナンス:親会社がグループ内の情報公開と報告のルールを明確にし、ガバナンス(統治)を機能させることが不可欠です。
- グループ文化の共有:連携を促進するため、グループ全体の目標や文化を共有するためのコミュニケーション施策を継続的に実施することが重要です。
III. 信用問題と銀行取引への影響
ホールディングス体制はリスクを遮断するメリットがありますが、子会社の不調がグループ全体の信用に影響を及ぼすリスクも存在します。
1. 赤字子会社による信用問題
- グループへの影響:グループ内に赤字の子会社が存在する場合、それがグループ全体の信用問題として外部に認識され、銀行などの金融機関との取引に影響を及ぼす可能性があります。
2. 株価への影響(非公開企業の場合)
- 株価対策との両立:ホールディングス化は事業承継対策として株価を下げる効果(相続税評価額を下げる)を狙うことがありますが、その結果、非公開企業の株式が現金化しにくくなるデメリットも生じることがあります。
回避策:目的の明確化と運営設計
ホールディングス化を取り入れる場合は、メリット・デメリットを考えた上で、「どのように運営したいのか、株式はどうするのか」など、目的と狙いを明確化し、持株会社の事業運営の設計を行う必要があります。
- 目的の明確化:目的が不明確な場合、「株価対策のみを目的としたもの」と捉えられ、税務上のリスクを負う場合があります。
- リスクコントロール:グループ内で巨額な損失が起きる兆候を早期に察知し、損失を出した子会社だけを迅速に売却・整理できるようなリスクコントロール体制を構築しておくことが、グループ全体の信用を守る上で重要です。
IV. まとめ:リスクを最小化するための「設計」の重要性
ホールディングス化は、体制を構築すれば終わりではありません。構築後の**「運営設計」**こそが、デメリットを最小化し、メリットを最大限に引き出す鍵となります。
専門家と協力し、コスト増加を抑える管理体制、組織間の連携を促す文化、そして税務・法務上のリスクを回避するガバナンスを事前に設計することで、ホールディングス体制は企業にとって最大の武器となります。
お問い合わせはこちら
弊事務所は、経営に関わる税務・会計の課題解決に特化しています。当事務所の報酬体系や具体的なお見積もりにつきましては、まず貴社の現状をお伝えいただき、個別にご依頼ください。お客様の事業が安心して成長できるよう、専門家として確実なサポートをお約束いたします。
